雑草群落の調査(モデル化)

ふまれの指数

雑草はどこにでも見られるすぐれた教材である。
そこでは植物と環境、さらには植物相互の戦いが演じられている。この生きた自然に目を向け、「ふまれの指数」を用いて調査させてみたところ、生徒はこの身近な自然に大変な興味を示してくれた。
ふまれの指数を用いると、環境変化に伴う植物群落の変遷を数量化でき、グラフで視覚化できる利点がある。野外学習としては手軽で効果的であり、データを科学的に処理できるので探究の過程も体験できる。

1.野外における調査

1)調査地の決定
  1. 調査地は校庭に選び、ふまれ以外の影響の少ない場所にとる(図1)。学校近くの空き地や遊び場を選ぶのもよい。除草剤や刈取りなどのできるだけない所に設定する。
  2. 事前に下見を行って巻き尺をはる場所のめどをつけておき、あわせて植物の種名等も植物図鑑で調べておく。
trampled-exponent3
2)調査区の設定
  1. 準備するのは巻き尺と方形わくと定規だけでよい。方形わくは1mのものさしか角材を2本用意する。角材の場合は図2のように、ボルト2本で固定する。
  2. 最もふまれの少ない校庭の片すみに方形わくを置き、基準調査区№ 1とする。№ 1は、できるだけうっそうとして草丈が高く、種類数も多い場所を選ぶ。
  3. ふまれの最もひどい調査区を校庭の中央よりにとり、基準調査区№10とする。できるだけ草丈が低く、ふまれに強い特定の種類だけが成育している場所を選ぶ。(№10は計算上、植被率の極端に低いところは避けたほうがよい)
  4. № 1と№10との間に巻き尺をはり、その間にふまれの弱い方から強い方へ、調査区№ 2~№ 9を等間隔にとる。(図3)
3)植物群落の調査
  1. 方形わくを置き、わくの対角線の位置に立って下をのぞき、1㎡ 四方のわくをつくる。
  2. それぞれの調査区毎に、方形わく内に見られる植物の種名とその被度階級を記録する。
  3. 被度階級は、図4のように方形わく内に占める植物の割合を6段階に分けて決定する。
  4. あわせて各調査区の植物全体の植被率と最高草丈も測定して記録する。

2.教室でのデータ処理

1)類似度の計算 【資料1参照】

自由に移動できない植物は、その種にとって適した環境ではよく増殖し、適さない環境では自然に消滅する。
したがって、環境が同じであれば同じような植物が同じような割合に生育する。
環境が変わればそこに生育する植物も自然に変わっていく。
二つの調査区に出現した植物の種類組成が、どの程度似ているのかを統計学的に数量化したのが、「類似度」である。類似度は次の式で求められる。生徒はデータ処理の過程等を体験できるので、ただ調査して終了するよりはより探求的な学習が可能となる。

類似度(%)= (2 ×(共通出現種の小さいほうの被度の総和)/ 2調査区の被度合計の和 )× 100

<計算例>

№ 1と№ 3類似度
(2×(3+3)/ 10+8 )× 100 = 67%
№ 1と№ 7類似度
(2×(1)/ 10+7 )× 100 = 12%
  • 被度+は無視して0として扱う。一方にしか現れない種は計算からはずす。
  • どちらも被度階級が同じ場合は、その被度階級をそのまま計算に入れる。
  • 二つの調査区が全く同じなら100%となり、出現種が全く違うと0%になる。
  • № 3と№ 7では№ 3の方がより基準調査区№ 1に似ている。
【資料1】

2)ふまれの指数の計算 【資料2参照】

類似度を用いて各調査区のふまれの程度を0~100の指数(環境指数)で表すことができる。ふまれ最小の基準区№ 1に対する類似度を求めると、数値が高い調査区程、同じ環境すなわちふまれの少ない場所と考えられる。
逆にふまれのひどい基準区№10に対する類似度は、ふまれが少ない場所程数値が低くなる。各調査区毎に二つの類似度を出して表にまとめ、下記の式にて平均をとり「ふまれの指数」とする。

ふまれの指数 =((100-A)+ B) / 2
№ 3のふまれ指数
((100-67)+0)/ 2 = 17
№ 7のふまれ指数
((100-12)+50)/ 2 = 69
  • № 3と№ 7では№ 7の方がふまれの指数が高くなり、ふまれがひどい。
  • 調査区の真ん中付近でも、ランニングコース等になっていれば当然指数が高くなり、したがって調査区番号の順位が入れ替わることもある。。
【資料2】

3)植物の変遷のグラフ化 【資料3参照】

ふまれの指数により各調査区のふまれの程度が数量化されたなら、いよいよ最後のグラフ化にとりかかる。まずX軸に各調査区毎のふまれの指数をとる。Y軸には各種類毎の被度階級の中央値をつぎつぎにとる。種類毎にプロットの印を変えるとよい。同じ種類のプロットを通る近似曲線を描き、種類毎に曲線で示す。
このようにグラフ化すると、調査結果の表ではわからなかった、植物の種類毎の分布状態を一目で把握することができる。したがって、ふまれの程度による植物群落の変遷を、単なる主観的又は直観的ではなく、より科学的な方法により正確に知ることができる。

  • 曲線は被度階級の高いもの、又は特徴的なものから5種類程を選ぶ。
  • 曲線の山が二つ出たときは、その二点の間をピークにした曲線を描く。
【資料3】

4)その他

環境指数をふまれではなく、いろいろなものに応用することができる。たとえば洪水指数に変えれば、川原の植物群落の変化をグラフ化できる。湿度指数に置き変えれば、湿原における植物群落の変化にも利用できる。環境変化に伴う植物群落の変化にはすべて応用できるので、ぜひ活用してほしい。